上気道の疾患は何に影響する?

大動物である馬は,どのような上気道疾患に罹るのでしょう?
上気道とは,主に鼻腔や喉頭(ノド)のことを指します。上気道の構造は,基本的には人と同様ですが,馬は鼻呼吸しかできません。つまり,口呼吸は困難ですので,鼻を塞ぐと窒息してしまいます。
馬は,競走馬や乗馬のように競走したり障害物を飛越したりしますので,運動中には1分間あたり100〜150回程度の呼吸をしています。そのため,空気の通り道である気道に疾患が存在すると,空気の体内への取り入れ(吸気)や排出(呼気)が上手く行かなくまります。そうなると,呼吸が苦しくなって運動を継続することが不可能となります。その代表的な疾患が喉頭片麻痺(写真1)です。喉頭片麻痺は,人も他の動物も罹ります。
喉頭片麻痺の診断は,基本的には症状と安静時の内視鏡検査で行います。しかし,喉頭の麻痺の程度が微妙な時には,実際に走らせながら内視鏡検査を実施することもあります。そして,喉頭片麻痺の程度が重く運動能力を阻害することが予測できる場合には,喉頭形成術という手術を実施します。本学でも,喉頭形成術を実施しており,殆どの馬が順調に運動を継続しています。
肺炎はどのように診る?

馬や牛の下気道(肺や気管支)の代表的な疾患に肺炎があります。肺炎は,人の死因でも上位に位置しており,人や動物が感染症で死亡する場合の主原因です。
肺炎は,人では胸部のX線検査やCT検査で確定診断をしますが,馬や牛では内視鏡で下気道を観察し,肺炎の有無や程度を診断します。また,気管支肺胞洗浄という特殊技術を用いて肺炎の発症部位である気管支肺胞領域を洗浄します。
気管支肺胞洗浄は,人医療でも肺胞蛋白症のような疾患時には実施されていますが,肺炎では一般的ではありません。しかし,馬や牛は体格が大きい(約500 kg)ので,胸部のX線検査やCT検査は殆ど実施できませんし,得られた画像にも診断価値を見いだすことは困難な場合が少なくありません。そのため,気管支肺胞洗浄によって,肺炎の発症部位を確認,洗浄し,肺炎の原因菌を捉え,薬剤感受性試験という方法で有効な抗菌薬を決定したり,免疫の状態を検査したりします。これらの情報を元に治療を実施することで,馬や牛の肺炎は著しく良化することが確認されています。気管支肺胞洗浄や抗菌薬療法によって治癒した競走馬が,肺炎の後遺症もなくターフを駆けています。