複数の絵具を使った描画技法
絵を描くときに使う絵具は水彩絵具や油絵具が有名ですが、ほかにも生卵を使う卵テンペラ絵具(※1)やアクリル樹脂が入っているアクリル絵具(※2)など多数存在します。それらの絵具は単体で用いるのが一般的ですが、中身の異なる複数の絵具を組み合わせて使う技法もあります。例えば油絵具は光沢のある透明感が、テンペラ絵具はつや消しで鮮やかな色が魅力です。この異なる性質の絵具を両方使って描くことで、単体では得られない、魅力ある画面を構築することができます。
私は特に油絵具・アクリル絵具・卵テンペラ絵具の3種類の絵具を中心に研究しています。3種類の絵具の特徴に応じた描画技法を検証し、それぞれの絵具に見合った描き方や組み合わせ方を導き出しています。私自身の絵画でそれらの技法を用いて制作し、その成果を展覧会や論文などを通して発表しています。
新たな描画技法の研究
近年では絵具を筆で描かずに、絵具の容器から直接画面につけて描く技法(圧搾技法・仮称)(※3)についての研究もしています。この技法によって、絵具を筆につける手間や用具の準備・片づけの時間が減り、制作時間を長く確保することができます。また、この技法を表現するために最適な容器の開発についても取り組んでいます。絵具メーカーとの協議を重ね、新たな容器の市販化をめざします。
さらに、具象的な絵画表現において、体系的にとらえて描く技法の研究もしています。これらの技法を使うことで、誰でも簡単に形を描き表わすことができるようになる、そのための技法の種類や手順を明文化していきます。絵を描くことが苦手だと思っている人は多く、形を正確に描けないことから生まれる苦手意識がその要因として挙げられます。そのような人でもこれらの技法を用いることで正確な形態描写が可能となり、その結果、絵画表現に対する苦手意識が軽減することを目的としています。
用語解説
(※1)油絵具が登場する以前の絵具で、主に顔料を鶏卵で練ったもの。そこに油を加えたタイプは油絵具との併用が可能である。
(※2)第二次大戦後に普及した絵具で、顔料をアクリル樹脂溶液で練ったもの。水彩絵具と同じく水に溶けるが、乾燥後は耐水性を示す。
(※3)圧搾(あっさく)技法、またはスクィージングと名付け、チューブ状の容器に入った絵具をしぼって先端の細いノズルから出た絵具を画面につけて描く技法。