食品成分からの抗寄生虫薬の探索
マラリア(*1)という感染症を知っていますか?世界三大感染症のひとつで、現状では、ワクチンも存在していない病気です。病気の本体は「マラリア原虫」という寄生虫です。有効な薬が存在していますが、薬が効かないマラリア原虫も出現しています。さらに、薬の副作用もあることから、安全でかつ効果的な新しい薬を探索する必要が常に求められています。そこで、我々は、安全性が高い食品に注目し、その成分から、薬となる候補を探しています。そのなかで、我々は牛乳に含まれるタンパク質にマラリア原虫の増殖を低下させる機能があることを発見しました。詳細に調べると、このタンパク質には、マラリア原虫が生体で増殖する際に必要な代謝反応を阻害する機能があると分かりました。さらに、我々は、その効果を増強させるにために、実際に使われている抗マラリア薬とそのタンパク質を組み合わせることで、マラリア原虫の増殖低下機能をさらに増強させることを発見しました。まだまだ見つかっていない有効な成分があると思っています。これらを見つけることで、食品の付加価値をあげることもできると期待しています。
ワクチンを食べることで、感染症と戦う。
病原体に対抗する重要な戦略としては「ワクチン(*2)」があります。その多くは「注射型」です。ワクチンを生体に投与するには、熟練した医療従事者による技術が必要であり、注射による痛みを伴うことが課題です。ワクチンは生体に、病原体に対抗するための「抗体」を生産させます。この効果によって、生体は病原体による重大な影響を低下できます。しかし、病原体の侵入自体を防げないため、その影響は避けれません。
病原体の侵入口は「粘膜」です。ここに抗体を生産させれば、病原体の侵入を防ぐ可能性があります。しかし、注射型のワクチンでは粘膜に抗体を生産させることは難しいのです。そこで、「食べるワクチン」に注目しています。ワクチンを食べることで、粘膜に抗体を生産出来ると期待しています。しかも、「食べる」という行為には熟練した技術は不要で、痛みもありません。この「食べるワクチン」を開発するために、我々は昆虫のひとつである「カイコ(*3)」を活用しています。カイコにワクチンを生産させる技術を利用して、そのワクチンカイコを食べることで、実際に生体に抗体ができるのかを調べています。
用語解説
※1 寄生虫であるマラリア原虫による感染症、有効なワクチンは存在していない。有効な薬は存在しているが、薬剤耐性や副作用の問題があるため、様々な薬が開発されている。複数の薬を利用する方が効果的であるため、新しい候補物質の探索が重要となっている。
※2 病原体を利用した医薬品のこと、近年では病原体の一部を利用したワクチンも開発されている。
※3 昆虫のひとつで、家畜化されている。日本では、昔からシルクの生産に用いられている。