ところ変わればことば変わる
世の中にどれほど多くの職業があるか知らなかった高校生の頃、日本語教師という仕事がある事を、とある私立大学の受験案内で見つけました。「外国人に日本語を教えるって面白そう!」と単純な理由で進路を決め、無事(?)第三志望の大学に合格した私は、800Km離れた土地で一人暮らしを始めました。
しかし進学後、日本語を教える事よりも800km先で感じた言語差に興味を持ち、日本語の地域方言について学ぶ道へ。日本各地でのフィールドワーク(※1)を通して多様な日本語に触れた事は、ことばを扱う仕事をする上で貴重な財産になっていると感じます。実は今、私の故郷と鹿児島市は2000km離れています。改めて考えると、2000kmというのは地域によってはいくつか国境を超える程の距離であり、鹿児島弁や頴娃語(※2)など、鹿児島では身近にある「日本語」も、他地域出身者には異国の言葉のように聞こえます。
それでは、言語も文化も違う遠い国々からやってきた留学生は、どのような日本語を、どのように学べばよいのでしょうか。その理念や方法、日本語の構造や背景にある文化まで、私達にとっての「あたりまえ」を客観的に捉える姿勢が、日々の実践や研究に欠かせないと感じています。
日本で日本語を学びたい!にこたえたい
国際交流基金が2015年度に実施した調査によると、世界137の国と地域で日本語教育が実施されており、約360万人の学習者(※3)が海外で日本語を学んでいます。外国語の上達を目指して日本人学生が海外留学する様に、この中には日本留学を一つの目標としている学習者が大勢含まれています。実際、アジアの大学で日本語を教えていた際には、多くの学生が日本留学を希望していました。海外の学習者と日本に暮らす留学生の間には、教室環境以外での日本語使用や学習機会があるかという点で大きな違いがあります。また、自国では同国人が圧倒的多数の環境で学び、日本では他国の人と同一環境で学ぶ機会が増えるという違いもあるでしょう。同じ日本語を学び続けながらも、渡日を機にその学び方や学習生活環境が大きく変わる事は、新しい経験、良い刺激になる一方、時に悩みの種ともなります。よりよい学習環境作りの為に、渡日目的や学習目標、母語の違いなどに配慮して日本語クラスを組み立てる必要があり、そこに難しさと面白さを感じます。
用語解説
(※1)【フィールドワーク】学術研究のために対象となる地域や社会を実際に訪れ、データを集め、より深く客観的に理解しようとする調査活動の事。方言研究の場合、現地へ出向き、対象者への聞き取り調査を行う事が広く行われる。
(※2)【頴娃語】旧頴娃町(現南九州市頴娃町)に見られる伝統的方言の通称。鹿児島県内の他地域方言と比べても異なる特徴が多く、Englishの「エイゴ」にかけて「頴娃語(エイゴ/ィエイゴ)」と呼ぶことがある。
(※3)【約360万人の学習者】日本語教育機関の学習者のみ集計。独学している者は含まれない。