メンデルの法則に合わない?遺伝子
イネは分類学的にはOryza sativaと名付けられています.イネと同じOryza属に所属する植物には,イネと異なり,自然界で自生している種が多く含まれており,これらを総称して,野生イネと呼んでいます.実は,大昔に一部の野生イネが遺伝的な変化を受けて,作物としてのイネに変化したのです.私は主にオーストラリアに自生する野生イネOryza meridionalisを研究材料にして現地調査を行ったり,遺伝子の研究をしたりしています.
皆さんの多くは中学生のときにメンデルの法則を学んだと思います.AAという遺伝子の組合せとaaという遺伝子の組合せのエンドウを交配すると,Aaという組合せの雑種ができて,その次の世代でAA, Aa, aaという組合せが1:2:1の割合で出現する,というものです.ABO式血液型の遺伝などで皆さんにもなじみがあると思います.
しかし,1:2:1という割合が常に成り立つわけではありません.私の研究室はOryza sativa (遺伝子の組合せはAA)とOryza meridionalis (遺伝子の組合せはaa)をかけあわせた実験材料を育成する過程でAA: Aa: aa=1: 2: 0になる現象を発見しました.Oryza meridionalisがもつa遺伝子2つのaaだと,受精後の早い時期に種子が育たなくなるのです.でも,Oryza meridionalisそのものはaaの組合せでよく育ち,毎世代,種子を稔らせます.不思議ですね? 私の研究室は,この謎に取り組んでいます.この遺伝子はイネを含むOryza属の進化に関わっているようです.
病気に強い新しい遺伝子を創り出す
人が病原菌に感染するように,イネも病気にかかります.イネが病気にかかると,生育が悪くなり,おコメが収穫できなくなります.イネの最も重大な細菌病の一つに白葉枯病(しらはがれびょう)があります.これは,イネ白葉枯病菌 Xanthomonas oryzae pv. oryzaeが引き起こす病気で,文字通り,病斑が伸びて葉を白く枯らしてしまいます.白葉枯病の対策に最も有効と考えられているのは抵抗性品種の育成です.抵抗性品種は抵抗性遺伝子をもっており,遺伝子の効果で白葉枯病菌の侵入を食い止めたり,病斑の伸びを抑制したりします.私の研究室は人為突然変異によって抵抗性遺伝子を創り出しています.新型コロナウィルスに複数の株があるように,白葉枯病菌にも株があります.従来知られていた抵抗性遺伝子は特定の株にのみ抵抗性を示し,全株に抵抗性を示すものはありませんでした.人為突然変異によって得られた抵抗性遺伝子の中には,これまで試した全ての株に抵抗性を示すものがあり,品種改良への利用が期待されています.