身体機能や認知機能に対する身体活動の効用

近年の高齢期における社会的な問題を反映するような新たな操作的な定義や考え方によって、いくつかの重要な課題が提唱されています。「フレイル(※1)」や「軽度認知障害(MCI)(※2)」と言われる状態は、将来に要介護の発生や認知症の発症につながる恐れがあり、これらの予防や改善の重要性が高まっています。運動などによって身体活動を向上させることは、加齢に伴うさまざまな機能低下の予防に好影響を及ぼす可能性が期待されています。身体活動を促進することは、身体機能のみならず、脳活動や脳実質の変化に対しても影響を及ぼすことが報告されています。身体活動の促進が認知機能の向上をもたらすメカニズムとしては、多種多様な要素が生物学的(内分泌機能、情報伝達機能など)、行動学的(睡眠、疲労など)、社会心理学的(自己効力感、社会的ネットワーク)レベルで複雑に影響しあって得られるものであると考えられます。とくに、活発な身体活動は前頭前野や帯状回、海馬などの記憶や学習に重要な役割を担う領域へ影響することが報告されています。そのため、認知症を予防するうえでも、積極的に身体を動かす機会を維持することは有効と言えるでしょう。
健康チェックによる要介護や疾病リスクの解明と多面的な活動促進介入による予防効果

高齢者が住み慣れた思い入れのある地域で、安心して自立した生活を営むためにも健康寿命(※3)の延伸が望まれています。そのためには、要介護や疾病を予防することが重要な課題のひとつとなります。要介護や疾病の予防のためには、その危険因子を同定して少しでも危険因子を削減できるような取り組みが必要となります。しかし、要介護の発生や高齢期に特有な疾病の発症リスクを早期に把握する機会がそれほど整備されているとは言い難いでしょう。まずは、自身の心身機能状態を客観的に把握することが望まれます。そのため、垂水市と協働での「たるみず元気プロジェクト」においては、高齢住民の身体・認知機能チェックのほか、心機能検査、日常生活や食生活の調査など、多面的で包括的な機能健診を行っています。これらの機能健診によって、要介護や疾病リスクの解明にも取り組んでいます。また、身体活動をはじめ、知的活動や社会的活動など、日常での多面的で活発な活動を促進することが健康長寿の延伸に寄与するとされています。これらの手法を駆使して、健康寿命の延伸にさらに寄与できる地域で可能な介入手法の開発およびその介入効果の検証にも取り組んでいきます。
用語解説
(※1)これまで「虚弱」や「衰弱」と訳されていた「Frailty」を日本老年医学会によって「フレイル」と表現することが提唱され(2014年)、健康な状態と日常生活に支援や介護が必要な状態の中間を意味します。
(※2)Mild Cognitive Impairment(軽度認知障害)の略で、認知症には該当せず日常生活に支障がないものの、認知機能(記憶、注意力など)が正常よりも低下している状態を指し、認知症に移行する危険が高い状態とされています。
(※3)健康上の問題がなく、自立した生活が可能な期間を意味します。日常での継続的な医療や介護が必要でない状態で、要介護認定を受けていない期間を指す例が多いです。