不安・ストレスと排便の関係は?
テストの前や発表会の前など、緊張したり不安を感じた時にお腹が痛くてトイレに行ったことはないでしょうか。私はよくあります。学会で研究成果を発表するときなど、なんとなくお腹が嫌な感じがして、何度もトイレに行ってしまいます。そんな時にふと、なんで緊張したり不安を感じたりするとトイレに行きたくなるんだろう、と疑問に思いました。緊張や不安などのストレスは、脳で感じるものです。どうして、頭で感じるストレスがお腹の中の腸に影響するのだろう。脳と腸はどんな風に繋がっているのだろう。こんな風に疑問をもった私は、脳と排便の関係に興味を持ち、研究を始めました。
そもそも、私たちはどうしてトイレに行きたくなるのでしょうか。腸は、うんちを出すだけでなく、溜めておくところでもあります。そうじゃないと、私たちは一日中トイレにいないといけなくなってしまいます。食べたものが消化されてうんちになり、ある程度腸に溜まると、感覚神経という神経が刺激されて、「腸にうんちが溜まってきたよ!!」という情報を脊髄に伝えます。そして、脊髄で中継された情報が脳へと伝えられて、トイレに行きたくなるわけです。
脳はどうやって排便を制御しているのだろう?
こんな風に説明すると、なんだ脳が排便を制御する仕組みはすでに分かっているんだな、と思うかもしれません。ですが、そんなことはありません。確かに、脳や脊髄が排便の制御に関わることは分かっていましたが、実際に脳や脊髄がどのように排便を制御しているのかはほとんど分かっていませんでした。そこで私は、脳と腸をつなぐ中継点である脊髄に着目して研究をすることで、脳と腸がどんな風に繋がっているのかを調べてきました。
これまでの研究から、脳の神経が脊髄まで軸索を伸ばしていて、脊髄でノルアドレナリン、ドパミン、セロトニンといった神経伝達物質を放出することによって、排便が制御されていることを突き止めました。さらに、ノルアドレナリン、ドパミン、セロトニンをもっている脳の神経が、排便制御に関わっていることも分かってきました。興味深いことに、これらの神経はストレスによって影響を受けることが知られています。もしかしたら、脳のノルアドレナリン、ドパミン、セロトニンをもつ神経がストレスを感じることで、緊張や不安によってトイレに行きたくなるのではないかと考えて、現在研究を続けています。