焼酎ってどんなお酒?
みなさんは、「焼酎」について知っていることを教えてください、と言われて何を連想するでしょうか?九州・沖縄では身近なお酒の焼酎ですが、意外と知っていることが少ないものです。焼酎は、約500年の歴史をもつ日本の伝統的な酒類の一種です。焼酎造りは、主に4つの工程で造られます。はじめに麹 (*1) をつくり、これに水と酵母を加えて一次もろみ(*2)を造ります。約28℃で5日程度発酵させた一次もろみに、主原料を加えて二次もろみを造ります。このときにサツマイモを加えると芋焼酎のもろみに、米を加えると米焼酎のもろみとなります。この二次もろみを約10日発酵させ、最後に蒸留 (*3) を行い、焼酎を得ます。蒸留により酒類を得ることで、もろみに含まれるアルコールと香味成分を取り出し、糖やアミノ酸と言った不揮発性の栄養成分と分けることができます。糖やアミノ酸を除くことで、酒がくさってしまうことを防ぐことができ、安定かつ安全に流通させることができるようになりました。このように焼酎の製造方法には、暖かい九州・沖縄の土地で酒造りに挑戦した先人の知恵がたくさん詰まっています。
焼酎の不思議と魅力に迫る
当たり前に造られてきた焼酎ですから、どうしてこのような造り方をしているのか、実は分かっていないことがたくさんあります。例えば、焼酎造りに主に用いられる白麹菌(Aspergillus kawachii)や黒麹菌 (Aspergillus luchuensis) は、清酒用麹菌(黄麹菌:Aspergillus oryzae)とは違い、クエン酸をたくさん生産し、分泌する能力があります。白黒麹菌が生産したクエン酸は、もろみのpHを低下させ、発酵時の腐造防止に働いています。しかしながら、私たちの研究で、クエン酸がもろみに含まれることでpHが低くなり、蒸留の加熱時にサツマイモに含まれる香り成分の前駆体(*4)が化学変換されて、揮発性の成分となり、焼酎に移行することが分かりました。つまり、芋焼酎の香りはサツマイモから直接来るものだけではなく、焼酎用微生物の働きと、焼酎特有の製造工程が協調的に働くことで生まれていることが分かりました。このように焼酎を通して、先人の技術の素晴らしさを科学的に証明することと、これからの新しい技術の開発に貢献する研究を行いたいと思っています。
用語解説
*1:麹とは、蒸した米や麦などの穀類原料に麹菌と呼ばれる糸状菌(カビ)の一種をC35培養したもの。麹菌に由来する酵素や成分を多量に含み、日本の発酵食品製造に欠かすことのできない原料の一つ。
*2:もろみとは、原料や微生物、仕込み水などが混合されて発酵している(する)状態の物を指す。
*3:蒸留とは、液体(二次もろみ)が沸騰するまで加熱し、生じた蒸気を冷却して再び液体(焼酎)として凝縮させる操作のこと。
*4:前駆体とは、ある化合物について、それが生成される前の段階の化合物のこと。