歯ぎしり(ブラキシズム)とは

歯ぎしり(ブラキシズム)は、歯のすり減り、クラウンなどの歯の補綴(*1)装置の破折、歯周病の悪化ならびに歯ぎしり音による睡眠妨害などを引き起こします。また、歯ぎしりは睡眠時と覚醒時の歯ぎしりに分けられ、睡眠時の歯ぎしりは複数の因子が関与しており、以前は、悪いかみ合わせやストレスなどに起因して生じると考えられていました。しかし、今は中枢性に生じることもあるなど多因子疾患と考えられています。そして、歯のすり減りなどを防ぐために、対症療法としてナイトガードという装置をつけることもあります。覚醒時の歯ぎしりも複数の因子が関与しており、患者指導を含めた認知行動療法と言って、日常生活において、歯のかみしめやくいしばりの癖に気付いてもらい、その癖を止めてもらう治療法が行われることもあります。
歯ぎしり(ブラキシズム)の新たな生理学的意義

前述のように、従来、歯ぎしり(ブラキシズム)については、マイナス面に焦点が当てられてきました。しかし、最近、歯ぎしりは異常な活動ではなく、健康に対してプラスの影響を与える生体防御反応かもしれないとする考え方に変わりつつあります(国際的なコンセンサス、2018)。私共は約15年前から、睡眠ポリグラフ検査や内視鏡検査ならびに胃食道逆流(胃酸の食道内への逆流)をモデルとした研究手法を用いて、上記の国際的なコンセンサスに先駆けて、「歯ぎしりは胃食道逆流によって生じ、それに伴う唾液の嚥下(つばの飲み込み)によって食道内の酸を中和するための生体防御反応である」とする根拠を示してきました。具体的には、歯ぎしりが唾液の嚥下を高頻度で伴うこと(Sleep 2003)、睡眠時の歯ぎしりが胃食道逆流に伴って生じること(Sleep 2003等3編)、睡眠時と覚醒時の歯ぎしりが食道内への酸刺激によって引き起こされること(J Dent Res 2011等2編)、胃酸分泌抑制剤(プロトンポンプ阻害剤)が歯ぎしりの頻度を有意に減少させること(J Dent Res 2016)等を報告してきました。