犬と馬の骨密度測定

獣医学分野において、犬や馬の四肢骨折は臨床上しばしば遭遇する問題ですが、骨の強度を客観的に評価する確立された方法は存在しません。また、ヒトでよく知られる骨粗鬆症が犬や馬にも同様に発生するのかは明らかになっておらず、診断基準も存在しません。そのため基礎的なデータ収集と分析が求められています。本研究では、定量的CT法を用いて犬の橈骨および馬の第三中手骨の骨密度を測定します。具体的には、対象骨と骨定量ファントムを同時にCT撮影し、得られた画像データを解析ソフトウェアに取り込んで骨密度や体積、ヤング率などの材料特性値を算出します。これらの数値と年齢の関係を解析することで、犬や馬の骨強度が低下する年齢の特定を目指します。本研究により、犬と馬において骨強度が低下する年齢が明らかになれば、個体ごとの骨折リスクを評価することが可能となり、骨折を未然に防ぎ、動物たちの生活の質(QOL)を維持することに貢献できます。また、犬や馬における骨粗鬆症の実態を解明することは、人間の骨粗鬆症の研究にも新たな視点をもたらし、病態解明に貢献する可能性があります。
有限要素法による犬橈骨の骨折シミュレーション

小型犬、特にトイプードルでは、低所からの落下事故による橈骨骨折が多発しており、外科的整復後に癒合不全を生じることがあります。しかし、小型犬やトイプードルにおいて橈骨骨折が多発する要因は十分に解明されていません。本研究では、対象動物の橈骨CT画像データを骨強度解析ソフトウェアに取り込み、有限要素法を用いて骨折シミュレーションを行います。この手法により、実際の骨折実験を行うことなく、様々な条件下での骨の挙動をコンピュータ上で再現し、詳細な解析が可能になります。骨折シミュレーションにおいて、骨に様々な方向や大きさの荷重(力)を加え、骨折が発生する場所や折れ方(骨折パターン)、骨折に至るまでの荷重をに調べます。これにより、どのような力が加わった場合に骨折しやすいのか、骨のどの部分が脆弱なのかなどを明らかにすることができます。また、骨の形状や密度、材質などのパラメータを変化させたシミュレーションを行うことで、これらの要因が骨折にどのように影響するのかを定量的に検討します。本研究の成果は、犬橈骨の骨折メカニズムを解明することで、骨折リスクを評価し、予防策を提案するとともに、獣医外科領域における臨床診断や治療法の向上にも寄与すると考えられます。