ヒューマンエラーの背後要因を分析する

人間はどのくらいミスをするのでしょうか.もちろん作業手順や環境に左右されますが,一般的には,ミス自体の発生が1,000回に3回(0.003),ミスの発生の見落としも1,000回に3回(0.003)程度であると言われています.
こうした「働く・生活するうえでのリスクをどう教えるか」をテーマに,当研究室では,サボタージュ分析(*1)をはじめとした安全人間工学(*2)の方法論に依拠しながら研究を進めています.直近の取り組みでは,個人情報漏洩・飲酒運転などを題材とした研修教材を開発しました.
従来は,膨大な項目にわたるチェックリストやルールが職員に示されてきましたが,対応に追われる現場はいわゆる「セキュリティ疲れ(*3)」を引き起こしかねない状況と言えます.
開発した新規の研修教材では,従来型の方法ではなく,「もし自分が飲酒運転になってしまうとしたら,どのような条件・環境・状況が揃うと発生するか?」を考えさせます.
複雑化し予測困難な社会において,働く・生活するうえでのミスの低減や影響緩和のためには,まずリスクを自分事としてとらえることから始まると考えています.
情報や環境などの現代的教育課題への対応

工学が実社会に有用なものをつくっていく領域であるように,教育工学もまた,学校教育現場の役に立つものを提供する使命のもと,教育方法・教材・システム等を生み出す学際的な領域(*4)です.
昨今の学校現場では,情報教育や環境教育など,現代的な教育課題をどう教えるかが議論されています.教科書の無い教育分野に対する解決策を提供するべく,当研究室では様々な教材の開発と提供を行なってきました.
教材開発の工程では,“現場”に出向き,“現物”を見て,“現実”を認識すると同時に従来研究も参照していくことで,学校現場のニーズにマッチした新たな教材をデザインしていきます.開発後は,実践を踏まえた効果測定,データに基づく評価・改善を経て,現場への実装まで進めていきます.
教員の多忙化や教員就職率の減少といった実情を踏まえ,現場の役に立つモノをいかに早く・広く提供し,逼迫する学校教育現場の問題解決,ならびに教育そのものの充実へとつなげていくことがカギとなります.
用語解説
*1 “事故を起こす”ことを目標として設定し,それを達成するための手段や状況を考えさせ,そのうえで予防的対策を考案・実行していくというエラー対策手法の一つ.
*2 人的要因によるエラー,すなわちヒューマンエラーを視野に入れた安全なシステムの設計に主眼を置く学問領域.
*3 しなければならない対策が増えることで対策への意欲が阻害され,対策行動が生起しなくなること.主に情報セキュリティ分野で指摘されている.
*4 文理をとわず,いくつかの異なる学問分野にまたがる研究のこと.