マイナーな哲学者を研究するということ

おもな研究対象であるジルベール・シモンドンは、1924年生まれのフランスの哲学者で、すごく有名というわけではないのですが、最近になって注目されるようになってきたひとです。シモンドンは1989年に亡くなるまでに3冊しか出版しませんでした。しかもその3冊は1958年の博士論文の主論文と副論文がもとになっています。そのうちの1冊が同時代のスター哲学者ジル・ドゥルーズによって取り上げたこともあり、完全に忘れ去られることはなく、今世紀に入って「再発見」された、そういうマイナーな哲学者です。『シモンドン哲学研究』(法政大学出版局、2021)では、こうしたシモンドンについて、博士論文の草稿なども見つつ、その哲学体系を取り出すことを試みました。
長い哲学史のなかで、なぜ教科書に載っているような大哲学者ではなくマイナーな哲学者を取り上げるかというと、ものの捉え方について多様性を増やすことも哲学の大事な使命だからです。哲学あるいはその歴史にも教科書的な共通理解があるわけですが、そこからはみ出るような哲学者を研究することで、わたしたち自身もこれまでとは違った仕方でものごとを捉えたり考えたりする練習ができます。これは非常に難しく、また危険な試みでもありますが、わたしたちの可能性の幅を広げるという意味でも重要なことです。
「自然」についてあらためて考えてみる

最近よく考えているのは「自然」についてです。自然というと、人間とは関係なく、客観的に存在しているような何かを思い浮かべるかもしれません。実際、たとえば自然科学が向き合っている自然は、人間の意志や主観によっては捻じ曲げられない自然法則に従っています。法律などの人間がつくったルールは人間の意志によって変えていくことができますが、自然法則はそうもいきません。
一方で、わたしたちが生きている「自然」が完全に客観的で、人間の主観や活動から無関係かというと、必ずしもそうではなさそうです。たとえば「自然」あるいは「自然であること」には一定の価値観が結びついていますし、また、人間のさまざまな活動が自然環境におよぼす影響について「人新世」という言葉で議論されているのはよく知られています。人間をはじめとする生物もまた、今ある自然を形成してきたわけです。
このように「自然」は、少し立ち止まって考えなおしてみるべきテーマと言えます。この大きなテーマについては、さしあたりシモンドンの技術論である『技術的対象の存在様態について』(みすず書房、2025)を一つの出発点としつつ、技術と自然を同時に捉えなおすことを試みています。