「海藻」って何?

皆さんは「海藻」という言葉を聞いて何を想像するでしょうか?味噌汁に浮かぶ緑色のワカメ、焼きそばにかかっている緑色の青のり、おにぎりに巻かれている黒い海苔、黒いヒジキの煮物、あるいはだしをとるのに使う黒いコンブの乾物を思い浮かべる方もいるかと思います。このように書くと、海藻は緑か黒っぽいものが多いなと気づかされますが、実は、コンブ類、ワカメ、ヒジキは茶褐色~オリーブ色の「褐藻」、海苔(アマノリ類)は赤い「紅藻」、青のり(アオノリ類)は緑色の「緑藻」という、色素(※1)の異なる分類群に属しています(※2)。つまり、「海藻」には褐藻、紅藻、緑藻が含まれるのです。これらの海藻は日本や中国では古くから食用として盛んに養殖されてきましたが、最近では欧米でも健康食品として注目され、養殖が始められています。また、海藻は普通、海沿いの岩場に生えますが、褐藻コンブ、ワカメ、ヒジキの仲間は特に成長が速く、大型化するため、海の中に「藻場」と呼ばれる森を作ります(※3)。この藻場は、魚介類の棲み場や産卵場となるため(※4)、漁業にとって大変重要なのです。
海藻に関わる問題は山積み~解決方法を模索する研究

しかしながら、藻場が縮小し、それに伴って漁獲量も減少する「磯焼け」現象が世界各地で起こり、問題となっています。これには高水温・貧栄養な海況条件や、海藻を食べるウニ類(※5)が関連していることが古くから知られていましたが、近年、南日本など海洋温暖化が顕著な海域では海藻を食べる魚類(※6)の行動が活発化し、高水温と相まって藻場に悪影響を与えています。また、養殖した海藻の色が薄くなり、品質が低下する「色落ち」現象(※7)や、養殖開始直後に海藻の芽が消失する「芽落ち」現象(※8)が日本各地で発生し、問題になっていますが、これらの原因にはまだ不明な点が多く、十分な対策技術はまだ開発されていません。私たちは、海藻の成長、植食動物に対する防御機構、光合成色素・色彩に対する水温、栄養塩濃度、光量などの影響を培養実験で調べ(※9)、ウニや魚類の摂食活動に関する潜水観察や飼育実験も行い、藻場や海藻養殖業を守るための手段を模索しています。最後に、世界の人口は増加する一方で、農業や畜産業を行える陸地面積には限りがあるため、近い将来に食糧が不足することが懸念されていますが、その窮地を救うのは「海藻」かもしれません。そのときが来るまでに藻場や海藻養殖生産を維持・向上する方法を見つけたい!そう切に願いながら日々研究を続けています。
用語解説
(※1)光を吸収する光合成色素。緑藻はクロロフィル(Chl)aとb(陸上植物と同じ)、褐藻はChl a、cとフコキサンチン(キサントフィル系)、紅藻はChl aとフィコエリスリン(フィコビリン蛋白)を持つ。
(※2)海藻本来の色と食卓で見る色が異なる原因の一つは、加工・調理時の過熱によって色素と結合していたタンパク質が変性し、色素の色が見えやすくなることである。
(※3)海藻によって構成される藻場は、海中林やコンブ目・ヒバマタ目褐藻群落とも呼ばれる。コンブ目にはマコンブなどのコンブ属やワカメ、ヒバマタ目にはヒジキなどのホンダワラ属が含まれる。
(※4)具体例としては、メバル類の棲み場、アオリイカの産卵場、ウニ・アワビの食物となる。また、藻場から脱落して漂流しているホンダワラ類(ヒジキの仲間)の「流れ藻」はブリ稚魚の棲み場となる。
(※5)ウニ類が大量発生すると食物不足で飢餓状態になり、摂食活動が活発化して藻場を破壊する。なお、飢餓状態のウニは可食部となる生殖巣が発達せず、品質も悪いため、漁獲されない。
(※6)植食性魚類や藻食性魚類と呼ばれる。南日本ではアイゴとノトイスズミの摂食活動が藻場に悪影響を与えている。ブダイ、ニザダイ、メジナ、タカノハダイもこれに含まれる。
(※7)海苔(アマノリ類)とワカメの養殖で発生する。主要因は養殖場の貧栄養条件であるが、私たちの実験結果によると、ワカメの色落ちは低水温だと富栄養であっても発生する。
(※8)ワカメ養殖で発生する。高水温・貧栄養ストレス、小型甲殻類、魚類、鳥類による摂食活動、病気などが関連しているようであるが、はっきりとは分かっていない。海域によって異なるようである。
(※9)私たちの実験結果によると、海藻の成長や色彩に対する水温、栄養塩濃度、光量の影響は複合的に働き、水温の影響は栄養塩濃度や光量によって強まったり、弱まったりすることがある。