経済の「心臓」銀行
私の専門領域は銀行論です。お金はよく経済活動の「血液」であると言われています。お金を経済主体の間に融通することが「金融」です。お金がスムーズに流通できないと、経済そのものが止まってしまいます。銀行は各経済主体にお金という血液を送り込む心臓のような役割を果たしています。そのため、一国の銀行業の経営状況が、そのまま経済活動全体を左右することが考えられます。
1988年、世界の銀行のトップ10のうち、日本は7行を占め、残りはフランス2行、アメリカ1行でした。しかし、2023年のランキングでは中国の銀行が5行、アメリカ4行、イギリス1行になっています(右表参照)。この結果は実際、各国の経済情勢を映しています。日本経済が「失われた30年」とも表現された長期停滞を抜けてようやく立ち直りつつある今、銀行業が直面している環境を認識し、その今後の方向性を探ることは非常に重要な課題です。
FinTechと銀行業の未来
銀行はお金を流通させる同時に、各主体の経済情報を収集・利用しています。これは銀行の「情報創造機能」と呼ばれます。近年、IT技術の発達がもたらした生活のデジタル化が進み、ビッグデータの蓄積と活用は銀行業だけでなく、金融業全体に大きなインパクトを与えました。
フィンテック(FinTech)とは、金融とテクノロジーを組み合わせた造語です。IoT、ビックデータ、人工知能(AI)、ブロックチェーン等テクノロジーの発展により、既存の金融サービスの改良や新しいサービスの創出ができます。例えば、ビッグデータをAIで分析し、顧客への貸出や資産運用のアドバイスを低いコストで行うことができます。
以上から、情報(ビッグデータ)と技術を持つ大手のFinTech企業が銀行の免許を取得すると、既存の銀行に代替するのか、というアイディアが浮上します。実際に、日本でも楽天やPayPayなどFinTechに基づく金融グループが存在しています。一方、銀行側はFinTech企業と提携する同時に、子会社を設立するなど形でFinTech技術を積極的に取り込んでいます。
中国では、アリババとテンセントのような世界トップのFinTech大手があるものの、中国のメガバンクは新しい技術を自社で開発する戦略を取っています。2022年、中国工商銀行のFinTechに関連する投資は262.24億元(約36億ドル)、IT関連の従業員数は3.6万人を超えました。私は既存の銀行のFinTech化を研究しています。銀行業は、これまで何度も衰退のピンチに直面したが、そのたび変化に対応して生き残ってきました。今度の技術革新がもたらしたインパクトに対応した銀行業の将来の姿を描くことを目指しています。
用語解説
Tier1資本:銀行を対象とする「バーゼル規制」特有の概念です。銀行の資本勘定のうち、資本金、法定準備金、利益剰余金、優先株、優先出資証券等優良資本から構成されます。