肺高血圧症を見逃さないために鹿児島でできること

“肺高血圧症”は心臓の右側の部屋(右心室)と肺をつなぐ肺血管の内腔が狭くなることで血圧が上昇し右心室に大変な負担をかけてしまう難病です。私が医学生だった二十数年前、この病気は100万人に一人の極めてまれな疾患とされ、ほとんど治療法がないまま亡くなっていました。しかし医学の進歩に伴い、肺高血圧症を起す原因が様々あることや原因によって治療法が異なることがわかり、原因にあわせた治療法も開発されたことで「治らない病気」から「治療できる病気」になってきました。日本国内の患者数も予想より多いことがわかってきましたが、特徴的な症状がないため病気が進行してから見つかることも多く、治療の効果が得られないまま命を落とすケースもあります。治療法が開発された現在は、いかに早い段階で診断し、原因にあわせた治療を行えるかが重要になっています。
当教室ではこの疾患に積極的に取り組んでおり、まだ国内で広く普及していないカテーテルという医療器具を用いた肺血管の手術治療や、重症の症例に有効とされる在宅点滴治療を行なっています。また鹿児島県内で定期的な勉強会・講演会を行い、できるだけ早期でこの病気をみつけてもらえるための啓発活動を継続しています。
肺高血圧症の完治を目指して

症例が増えたことで、様々な研究にも取り組んでいます。実際治療を行った患者さんの経過を詳しく調べ、より早期に肺高血圧症を診断できる方法を検討したり、肺高血圧症を起した原因をより簡単に特定できる画像診断法を模索したりしています。また、肺高血圧症がなぜごく一部の患者さんに発症するのかがわかっていませんので、根本的な原因を解明するために血液中の成分を詳しく調べる研究や、遺伝子解析による研究も行なっています。近年、肺高血圧症の原因を究明する動きは日本国内で活発になっており、肺高血圧症の治療を行なっている複数の施設が共同で取り組む“多施設共同研究”にも積極的に参加しています。今この病気で苦しむ患者さんのために、実際の医療現場ですぐ活用できる臨床研究はもちろん、原因究明のための基礎研究をすすめることが一人でも多くの肺高血圧症患者さんを救うことにつながると考えています。将来肺高血圧症が「治療できる病気」から「完治する病気」になるために日々診療、研究に取り組んでいます。