河川の植生と植物の種多様性

私は特に河川の植生の成り立ちと植物の多様性に興味をもって研究を進めてきました.河川は陸域と水域の移行帯に位置し、毎年の洪水、何十年または何百年に一度の大洪水、土石流など、様々な規模と頻度の自然撹乱が生じている場所です.このような自然撹乱は植物体を破壊しますが,じつはこの不安定な環境が河川沿いの独特な植生の成立と種多様性には不可欠です.
例えば,奄美大島の河川では下流域の河川敷にオオサクラタデなどのタデ科植物やセイタカヨシなどのイネ科植物からなる草本群落が,水中にはキクモ,エビモなどの水生植物群落が成立します.中流から上流域の渓流では,強い流水に適応して著しく小型化した植物(渓流植物)の群落が成立するのが特徴です.渓流植物にはコビトホラシノブ、アマミスミレ、コケタンポポ、ヒメタムラソウ、ケラマツツジなどの琉球列島の固有種が含まれ,その多くが絶滅危惧種となっています.以上の植物たちは河川によって,または同じ河川でも場所によって生育する種の組み合わせが違っていますが,どのような要因によって,これらの植物の分布が決まるのかを主なテーマとして研究しています.
校庭の植物を学校教育で活用する

私たちの暮らしている鹿児島県は植生の成り立ちや,植物の多様性からみてとても興味深い地域です.地域の自然を理解するためには、山野の原生的な森林や湿地、草原など自然観察を行うことが望ましいと考えられますが,学校教育の中で実行するのは簡単ではありません.しかし,校庭には日本の森林をつくる在来の樹木がしばしば植栽されていますし、雑草として意外と多くの草本植物が生育しているようです.このような校庭の植物は自然への興味と理解を深めるための教材として有効であると考え、環境教育や理科教育での活用を目的とした研究を進めています.
奄美群島の学校の校庭に生育する植物の調査を行ったところ,各校につき50~100種の在来植物がみられました.絶滅危惧種が生育している学校もありました.これらの植物は地域の植生や植物の生活を知るきっかけとして有効である可能性があります.また,栽培植物を加えると各校につき150種以上になり,人の利用の観点からも学習が可能となっていました.今後、校庭の植物調査の結果を活用して地域ごとに植物観察図鑑を整備し,地域の自然や植物を効果的に学習する方法を検討していきます.