犬の癌で変化する遺伝子を全部まとめて解析しちゃおう!!

犬や猫も人同様に高齢化が進み、癌が死因の上位です。
私の研究室ではこの癌に対して動物医療から戦いを挑んでいます。その戦略として、遺伝子に着目しています。生物が活動する上で重要な働きをするタンパク質を作る遺伝子は、ATGCの4つの塩基により規定され、このことは全ての生物に共通です。この遺伝子に異常が起こることで、病気になります。これは、人も動物も共通であり、病気の原因となる遺伝子にも共通なものがあることは容易に想像できます。
この遺伝子にはタンパク質に翻訳されるメッセンジャーRNAが、数万種類あり、そのメッセンジャーRNAからタンパク質への翻訳を調節することがわかっているマイクロRNAも数千種類あります。これらを一つ一つ解析していては私の1回の人生では足りないです。そこで、細胞に発現しているこれらの遺伝子を一斉に解析できる新しい技術である次世代シーケンス解析を利用し、様々な種類のイヌの癌を対象にして、発現している遺伝子を”まとめて”解析しています。その結果、犬と人で共通に異常となる遺伝子を一群としてとして発見することがきてきました。これらの遺伝子群はネットワークを形成するように相互に影響しあう理由を解明しながら癌を克服したいと考えています。
牛の乳房炎(乳腺炎)から探る炎症のメカニズム

獣医学部では様々な動物を対象に研究をします。
鹿児島という大畜産地帯ある本学では、畜産動物に関する研究をするにはとても良い環境です。私は牧場に生まれ育ったので、牛の病気を治すことは物心ついた頃からの夢でした。乳房炎は牛乳を沢山出してくれるように品種改良した牛の宿命的な病気です。人でも授乳するお母さんの20-30%が乳腺炎になるというデータもあるのですが、牛の乳房炎は人の乳腺炎と同じような病態となります。
私の研究では牛の乳汁中に出てくるsmall non-coding RNA分子を観察することで、乳房炎の病気の実態や診断法、治療法を見つけることに挑戦しています。このsmall non-codingRNA(マイクロRNAなども含む)は、病気の状態によって違うタイプのものが見つかります。乳房炎の牛でも、次世代シーケンスで病気で変化する全てのマイクロRNAを調査したら、人の乳腺炎などと同じようなマイクロRNAが変化していました。このように動物と人の病気の共通点を比較しようとする新しい試みはZoobiquity(汎動物学)と呼ばれますが、新しい学問分野としても提唱されています。