ウイルスのことを知りたい
私は獣医の学部生だった頃から数えて15年間、ずっとウイルスの研究を行ってきました。新型コロナウイルスの出現によりウイルス学に興味を持つ人が増えてきており、ウイルス研究者というものが身近に感じられるようになってきたのではないでしょうか。ウイルスはナノメートル単位という極めて小さなサイズであるにも関わらず、ヒトや動物に病気を引き起こし、時には死に至らしめることもある不思議な存在です。なぜウイルス感染によって生き物は病気になるのか?どうやってそれを予防・治療するのか?これらを明らかにするためには、ウイルスそのものの性質を詳しく調べる必要があります。この目的を達成するため、私たちの研究室では「ウイルスたちはどう生きるか」を明らかにする研究を行っています。遺伝子組換え実験、細胞や動物へのウイルス感染実験、バイオインフォマティクスなどの技術を駆使して、なるべくたくさんのウイルスの、なるべく多くの性質を明らかにしていきたいと考えています。
ウイルスの不思議:6の倍数のウイルス
私たちの研究対象のひとつにパラミクソウイルス科と呼ばれるウイルスグループがあります。パラミクソウイルス科には麻疹(はしか)・おたふく風邪・犬ジステンパーなど、ヒトや動物に病気を引き起こすものがたくさん含まれています。不思議なことに、自然界に存在する全てのパラミクソウイルス科のウイルスはゲノムRNAの塩基数が必ず6で割り切れるのです。私たちの研究室では、「なぜ全てのパラミクソウイルスのゲノムRNAの塩基数が6の倍数なのか?」という生物学的な疑問を追及しています。最近私たちは、組換えウイルス作製技術を駆使して、6の倍数では無いゲノムRNAであっても増殖することができるウイルスを人工合成することに成功しました。この技術を使って、この6の倍数の不思議に迫っています。さらに、この人工合成されたウイルスは弱毒ワクチンとして有効である可能性がわかってきており、私たちは新しいワクチン開発技術の開発に繋がる可能性を探っています。