「島」と「先史学」
なぜ、島を研究するのでしょう?島は、九州島などの大きな島や大陸と比較すると環境がシンプル(環境がシンプルな分、資源も少ない)で、境界線が明瞭です。ですので、生物進化や生態学の専門家には「島は自然の実験室」と言われています。つまり、生物がどのように進化したのか、あるいはどのように環境に適応したのかを理解するには理想的な空間なのです。
先史学とは何でしょう?ヒトの歴史は文字記録の残る「歴史時代」と文字のない「先史時代」から成り立っています。私の研究は文字のない時代を対象としています。先史時代はヒトの歴史の90%以上を占めるのですが、この時代があったおかげで、今日の私たちが生存しています。先史時代の人たちがある環境に移住して、どのようにして生き抜いたかを解明する学問が先史学です。説明が長くなりましたが、私の研究は環境がシンプルで境界線の明瞭、そして食料を含め資源の少ない島の環境に、先史時代の人たちがいつ移住してきて、どのように生き抜いてきたかという点に焦点を当てています。
琉球列島の島々の先史学:奄美・沖縄諸島を中心に
上記のアプローチで、私は主に奄美諸島と沖縄諸島を中心にこれらの島々の先史時代を研究してきました。そうすると、奄美・沖縄諸島の先史時代が世界的にみて大変稀有な文化現象があったことが判明しつつあります。例えば、旧石器時代(今より1万年前以前)に人がいた島。世界中に数多くの島がありますが、旧石器時代に人がいた島は、10箇所もありません。しかし、琉球列島の島には少なくとも8つの島に人がいた証拠があるのです。また、特に奄美・沖縄諸島なのですが、狩猟採集の人々が数千年間も住んでいたことが分かりつつあります。奄美・沖縄諸島のような島で、狩猟採集民が数千年間も生存した島は世界には他にないかもしれません。さらに、彼らは自然と調和して生活していたようです。世界の他の島々では、人間集団が暮らし始めると、島の環境の劣悪化あるいは環境破壊が起こることが定説となっていました。しかし、奄美・沖縄諸島の先史時代には今のところそのようなデータを見つけることができません。今日環境問題について聞かない日はありませんが、「島は自然の実験室」であれば、もしかしたら奄美・沖縄諸島のデータは環境問題に関して何かヒントを与えるものかもしれません。