バーチャルリアリティで脳や運動を理解する
皆さん、バーチャルリアリティ(Virtual reality; 以下VR)という言葉は聞いたことがあるでしょうか。VRとは、現物・実物ではないが機能としての本質はおなじであるような環境を、ユーザーの五感を含む感覚を刺激することにより理工学的に作り出す技術及びその体系のことをいいます。一般的に「仮想現実」と訳されています。VRは近年様々なビジネスの場で活用されており、VRゲーム(※1)、VRチャット(※2)、Google Earth VR(※3)、VR医療シミュレーション(※4)などに実用化されてきています。一方、VRを使って人がどのような仕組みで世界を知覚・認知しているか、その性質を解明する研究も進んできています。視覚と聴覚に関する研究が最も進んでいますが、触力覚研究も活発になっています。私の研究は、運動制御における脳の働きをVRを用いたアプローチで研究しています。図の装置は、触力覚装置(※5)と呼ばれるもので、VR空間で物体を触ったり持ったりする経験ができます。コンピュータと情報科学技術を駆使することで、時空間的にを制御された環境・運動条件を作り出すことが可能です。このような理由で脳や運動を理解するツールとしてVRを用いて研究しています。
バーチャルリアリティで脳や運動を強化できるか
VRは脳や運動を理解するツールとしても有用ですが、VRで脳や運動を強化することができるのでは?というアプローチでも研究を進めています。例えば、ゲームで反射神経を鍛えることが可能であることは皆さん想像がつくのではないでしょうか。私の研究では、リハビリが必要な患者さんからトップアスリートといった運動パフォーマンスのレベルが対局にある人々の脳を強化する事を意識した研究を行っています。VRを用いた研究の面白いところは、映像・音響・触覚などを時空間的に操作することによって人の脳をだましたりすることができることにあります。例えば、筋力が衰えている人に対して映像・音響・触覚を操作した環境で運動を実施させることによって、本人が思っている以上の力を発揮させたりすることが可能であると考えています。私の研究室では、他者と協力して運動タスクを実施した方が運動パフォーマンスを向上させることをVR環境を用いた実験環境で明らかにしました(図参照)。今後は、運動の熟練者が何故高度な運動ができるのか研究することによって、リハビリやスポーツトレーニングに応用できるような発見を目指して取り組みたいと考えています。
用語解説
VRゲーム:臨場感溢れる3D体験と映像音声を結びつけることで、プレイヤーにバーチャル・リアリティ技術を手軽に体験させることができる。2016年にPlayStaion VRが発売され、VRゲーム市場は盛り上がりを見せている。
VRチャット:VR空間内にアバターでログインし、多人数でコミュニケーションできる空間。
Google Earth VR:2016年11月にアメリカのIT大手・Googleよりリリースされた、バーチャル地球儀閲覧アプリ「Google Earth」のVR(バーチャル・リアリティ)版。
VR医療シミュレーション:高精細なVR映像で手術シミュレーションを行うことで、時間、場所の制限がなく手技の訓練が可能となる。
触力覚装置:そこに物体があるかのように感じさせる技術、または指が物に触れたときに生じる反力を再現する技術。物体の形、硬さ、重さなどを知覚可能。