酵素タンパク質は無限の可能性を秘めている!
私たちの身体の中では生命活動を維持するために無数の化学反応が進行しています。その反応を円滑に進めるために必須のアイテムが酵素タンパク質です。酵素タンパク質は触媒として働き、遷移状態の分子を選択的に安定化させることで化学反応の速度を著しく上昇させる素晴らしい分子マシーンです。通常は進まないと思われるような化学反応も、酵素タンパク質にかかればスイスイ進んだりします!私はこの触媒能力について、生化学的な視点だけでなく、有機化学的な視点からも見つめた研究を展開しています。特に「生命現象を有機化学反応式で記述する」というvisionを掲げており、酵素タンパク質の持つ可能性を見出し、その能力を最大限に高めることが目標です。そしてこれらの研究活動を通して「地球環境再生に向けた持続可能な資源循環」つまり、大量生産・大量消費だけではない新しい産業創出のための基盤を創り、使用前から使用後の行方まで考えた自然と共生・一体化する消費活動を目指したSDGsに貢献したいと考えています。最近、特に力を入れて研究しているのは、ナイロン分解酵素とホタル由来の酵素です!
私たちが取り組んでいるナイロン分解とホタル生物発光
1) 高分子ナイロンの酵素分解、リサイクルに関する研究
近年のホットトピックスの一つに海洋プラスチック汚染問題がありますが、その原因の一つとなっているのがナイロンです。とても丈夫なため環境中で生分解を受けないとされていますが、実は私達はナイロンを分解できる酵素タンパク質をずっと前(1970年代)から研究していました。世界中で私たちだけが保有している唯一無二の酵素タンパク質です。最近になって世界から注目されるようになってきて、やっと時代が追い付いてきたという感じです(笑。本酵素タンパク質の機能を分子レベルにて解析し機能強化することで、ナイロンの本格的なリサイクル技術へと発展させることに取り組んでいます。ナイロンは廃棄物という認識を180°転換し、資源として生まれ変わらせることを目指しています!
2) ホタル生物発光に関する研究
ホタルの発光は、酵素ホタルルシフェラーゼが、基質D-ルシフェリンをオキシルシフェリンへと化学変換することで実現されます。この発光反応を利用したin vivoイメージングは、医薬品や診断薬の開発において必要不可欠な技術の一つとなっています。しかし、酵素タンパク質自体の本質に迫る研究は未だ発展途上で未解明の部分が多く残されており、学術的な視点から見ると研究し甲斐のあるチャレンジングな対象です。例えば、光る色を自在に制御する方法の開発や、発光基質の生合成経路を解明する研究を通して、私たちはホタル生物発光をもっと使いやすくするための技術開発を行っています。また、日本中に生息するゲンジボタルに対するゲノムレベルでの網羅的なDNA変異解析によって生息場所と発光周期の関連付けを試み、遺伝子多様性保全の取り組みへと展開しています。