食品機能性を網羅的に見出す
食品の機能性は3つに分類されており、「栄養」に係わる第一次機能、「嗜好」いわゆる美味しさに関する第二次機能、そして「生体調節機能」としての第三次機能があります。私たちの研究室では、3つ目の機能である「生体調節機能」についての研究を行っています。
具体的には、まず、食品に含まれる機能性成分を抽出・精製分離したのちに、ポリフェノール含量や、抗酸化活性、高血圧抑制効果や、抗肥満効果などを試験管レベルでの実験手法を用いて調べています。そこで効果が得られた機能性成分は、ヒトや動物の培養細胞に添加してみて、生きた細胞に対しても、がんの予防効果や、抗炎症効果、脂肪蓄積の抑制効果などを示すかを検討します。また、実験モデルマウスに、これらの機能性成分を摂取させ、よりヒトに近い条件下での効果を検証します。細胞や実験動物を用いた研究では、タンパク質レベルから遺伝子レベルまで解析することで、より詳細なメカニズムの解明を行っています。
このように、私たちの研究室では、食品の健康増進機能・安全性を実験動物から細胞・タンパク質・遺伝子に至るまで網羅的に評価するシステムを構築しています。これらの評価システムを用いることで、食品の機能性・安全性および作用機構を解析し、安全で健康増進機能を持つ食品の開発に応用する基礎的知見を提供することを目的としています。
食品の機能性を高めるために
食品の中でも、野菜などに多く含まれる機能性成分の代表例の一つに、ポリフェノールがあります。ポリフェノールは抗酸化能が高いことで有名ですが、その他の作用として、抗炎症効果や、抗アレルギー効果、視覚機能調節作用や脂肪の吸収抑制作用など多くの機能性が報告されています。
私たちの研究室では、ポリフェノールの持つ機能性をより高くすることはできないか?と考え、ポリフェノールの機能と構造活性相関を明らかにするために、化学的手法を用いた構造改変などを試みてきました。その結果、ポリフェノールの一部を改変することで、がん細胞の増殖抑制能およびアポトーシス(*1)誘導能が高くなる可能性を見出しました。写真は、ヒト由来の大腸がん細胞(①)に玉ねぎに多く含有されているポリフェノールの一つ”ケルセチン”を添加した状態(➁)、そのケルセチンの一部を改変した、”ケルセチン誘導体”を添加した状態(③)を示しています。この写真から、もともと機能性を有するケルセチンが、さらに高いがん増殖抑制効果を示すようになったことが分かると思います。
このようにして、機能性を有する化合物を上手に利用できれば、さらに効果の高い化合物が簡単に作製できることが明らかになったことから、現在は、食品の機能性成分をベースに用い、その構造特性を活かすことで、より簡便で、より効果的な化合物を作り出すことが出来ないかを検討し、様々な誘導体の作製を行っています。"
用語解説
*1)アポトーシス:あらかじめ予定(プログラム)されている細胞死のこと。細胞が構成している組織をより良い状態に保つため、細胞自体に組み込まれたプログラムの一つ。