投映法心理検査を用いての共感の探究
人間の特徴のひとつに共感能力があります。この共感する力によって私たちは多くの人々と結びつき、社会を形成し文化を生み出してきました。そればかりでなく、共感は苦しみ悩む人を支えたり、学びや育ちを促したりする働きをもっています。
しかし、この共感能力は日常生活のなかであまりにも普通に使われすぎているために、かえってその仕組みが分かりにくいところがあります。そこで、私は、絵を見て簡単なお話(物語)をつくってもらうという課題の投映法心理検査(*1)を使って、その謎にアプローチしています。具体的にはThematic Apperception Test(TAT;主題統覚検査)というものを使います。私たちは、人間を相手にする場合だけではなく、絵に描かれた人物像にも共感することができます。しかし、生身の人間への共感に比べると、ちょっと難しくなります。そのような傾向を利用しながら絵の条件を変えてデータを集めていくと、物語をつくった人のパーソナリティ(いわゆる性格)を推測することができます。さらに、何らかの障害によって共感能力の一部が発揮できない人たちの物語を集積して分析すると、共感の仕組みを理解するヒントが得られるというわけです。
不登校の子どもたちへの共感的で多層的なサポート
私は、先述したような共感の理論的な側面だけでなく、共感を活かしたサポートについての実践的な研究(スクールカウンセリングや教育相談に関する研究)も行っています。特に、不登校の状態にある子ども達への支援方略の探究に力を入れており、子ども本人はもちろん、その子どもの家族(特に保護者)や教師・学校、教育支援センター(適応指導教室)もその対象に含めています。なぜなら、不登校は必ずしも子ども本人の内側の問題ではなく、本人をとりまく環境や人間関係に由来することも多いからです。また、要因が不明であっても、本人の目線にあわせて周囲の状況を共感的に理解して環境等を調整したり、周囲の人々にも共感的に関わり、保護者や担任教師等を励まして持続可能なチーム支援体制を構築していくことが求められています。
このように共感的な関係を多層的に整えていくことが心理支援では重要となりますが、実際には試行錯誤の連続です。しかし、多くの事例にむきあうことが次の事例につながると考えて、日々取り組んでいるところです。
用語解説
曖昧で多義的な刺激を示して、それに対する反応を分析・解釈する心理検査の一手法。