化学発光を利用して物質をはかる
ケミカルライト(サイリューム)を見たり使ったりしたことはありますか?ケミカルライトは、化学反応により生じたエネルギーを光として放出する「化学発光」という現象を用いたものです。熱を伴わず、液体から赤、青、黄など様々な光が出るので、とても不思議な魅力を感じます。また、ただ美しいだけでなく、災害時等の非常用光源としても有効利用されています。
この化学発光は、実は化学物質の測定にも非常に役に立ちます。測定したい物質(分析対象物)が、ある物質(発光試薬)と化学発光反応を起こすなら、発光試薬が過剰に存在している条件下では、発光量=分析対象物量となります。つまり発生した光量を測ることで、分析対象物の量を決定できます。真っ暗闇で光を見つけるのは人の目でも簡単ですよね?さらに機械の目(光電子増倍管)を使えば、非常に微弱な光、つまり極微量の化学物質の存在を見つけることができます。また、化学発光反応を起こす物質の組み合わせは、それほど多くはありません。これは応用範囲が狭いという欠点と思われそうですが、様々な化学物質を含む生体試料や環境試料の中から、分析対象物だけを選んで光らせる(測る)ことができるという非常に大きな利点となっています。
環境中の微量化学物質を追跡する
これまでの研究で、化学発光反応を検出に利用した高速液体クロマトグラフィー装置により、主に発がん性物質として知られるニトロソアミン類、水俣病の原因物質として知られるメチル水銀の高感度測定法を確立してきました。
ニトロソアミン類は、強い発がん性を持つ物質群として知られ、最近では市販胃薬の中に混入して回収騒ぎとなっていますが、消毒副生成物として水道水にも含まれていることが明らかになっています。水道水中の存在濃度は数ng/L(10^-9 g/L)レベルで、これまでの方法では、その測定は時間とコストがかかるものとなっていました。しかし、私が開発した測定法では1ng/Lのニトロソアミン類を15分程度で測定が可能です。現在、国内外の研究機関や企業と協力して、水道水など様々な試料中のニトロソアミンの測定を進めています。
またメチル水銀に関しては、これまで魚に蓄積したものが人体に入るメチル水銀の大半と考えられ来ました。しかし近年、コメにもメチル水銀が蓄積することが報告され、世界中で蓄積経路や人体影響について研究が進められています。私の研究室でも独自開発したメチル水銀測定法を利用し、無機水銀汚染を受けた田んぼで、どのようにメチル水銀が生成し、それがどうやってコメに蓄積していくのか、明らかにする研究などを進めています。"