2種類のイノベーション
イノベーションには画期的なものと漸進的なものがあります。
画期的イノベーションは既存の製品・サービスとは全く異なる新しい製品・サービスを指しています。例えば、スマホはそれまでのガラケーとは全く異なった新製品で人のライフスタイルを変えるほど破壊的な力を持つ画期的イノベーションです。一般的にイノベーションといえば、この種のイノベーションを思い浮かぶことが多いでしょう。
漸進的イノベーションは既存の製品・サービスに対するマイナーチェンジを指しています。スマートフォンのモデル更新は既存機能の改善や新機能の追加が行われるが、抜本的な変化が伴わない漸進的イノベーションです。
画期的イノベーションの創出には多くの投資が必要とされるし、不確実性も高いが、企業の将来の利益につながります。対して、漸進的イノベーションはより少ないコストで短期的に利益を生み出すことができます。
企業は長期的に存続していくためには限られた経営資源の中でこの2種類のイノベーションをバランスよくマネジメントしていかなければなりません。画期的イノベーションと漸進的イノベーションの両立を目指している「両利きの経営」が近年注目を浴びています。
両利きの経営に役立つマネジメント・コントロール・システム
画期的イノベーションの創出と漸進的イノベーションの創出には異なる学習プロセスを持つため、二者を両立させるのには異なる組織戦略、組織構造、組織文化が必要となり、経営上難しい課題です。この課題に対して、実務ではどうのようなマネジメント・コントロール・システム(以下、MCS)を利用し対処しているのかを調査し、優れた取り組みを抽出し理論的に分析しております。
MCSとは、経営者が従業員行動を方向づけるために利用されるツールです。組織文化、戦略、KPI*1、PDCAサイクル*2、評価システム、組織構造などが例としてあげられます。
上場企業を対象して実施したアンケート調査の結果では、組織の価値観の共有に基づいた信条コントロール、従業員が回避すべき行動を規定する境界コントロール、目標達成をモニターする診断型コントロール、上下の頻繁なコミュニケーションを特徴とした双方向型コントロールの4つの組み合わせが画期的イノベーションと漸進的イノベーションの両立に役立つことが示されています。
現在は「アメーバ経営」という日本的経営システムと両利きの経営との関係について事例研究を行っております。
用語解説
※1 Key Performance Indicator、重要業績評価指標
※2 計画(Plan)−実行(Do)−進捗確認(Check)−是正行動(Action)のサイクル