環境と生体をつなぐもの〜ホルモン動態を指標として〜
形態や生理など動物の体の特徴や、相手や環境に対してどのように振る舞うかといった行動の特性は、長い進化の過程でつくられてきたものです。そして、それらの特性は、その動物がどのような環境に暮らし、また、どのような社会をもっているかによって異なります。それぞれの動物には、周りの環境を常にモニタリングしながら体の機能や行動を調節するしくみがあり、それが積み重なって今の姿があります。
環境をモニタリングして生体内に情報を伝える物質の一つがホルモンです。ホルモンの動態を調べることによって、その動物がどのような環境で暮らしてきたのか、あるいは暮らしているのかを知ることができます。とくに、自然の中で暮らす野生の動物のホルモン動態を調べることによって、その動物が進化の中で獲得した生活様式や社会構造について理解することができます。
わたしは、ニホンザルやチンパンジーといった霊長類の行動や社会について研究をしています。森で暮らす野生のサルたちを追いながら、彼らの「うんち」を拾い、それを実験室に持ち帰ってホルモン動態を調べています。糞は、動物に負担を与えることなく生体の機能を調べることができる、とてもよい試料なのです。
アフリカの森でゴリラを観察する
現在、わたしはガボン共和国でニシローランドゴリラの社会について研究をしています。ゴリラは2種4亜種に分類されますが、世界の動物園にいるゴリラのほとんどはニシローランドゴリラです。ゴリラは一般的に、一夫多妻の社会で暮らしています。オスもメスも、成長すると自分の生まれた群れを出て繁殖相手を探しますが、メスは比較的近くの別の群れに入って子を産むことができるのに対し、オスは、他のオスに連れ添うメスを集めて自分の群れをつくらなければ、子孫を残すことができません。時には、オス同士の激しい喧嘩が起こります。オスの生涯において、群れを出ることは大きな節目と言えます。
わたしは、オスの移出がどのようなタイミングで、どのような過程を経て起こるのかについて、ホルモン動態や社会関係を観察しながら調べています。実は、ゴリラの亜種の中には、オスが産まれた群れを出ることなく繁殖する場合もあり、様々な条件が影響するようです。どのような要因がオスゴリラの移出に影響を与えるのかを知ることで、ゴリラ社会の多様性のしくみが明らかになるのではと考えています。