定期的な運動は脳梗塞後に神経保護効果を発揮する

脳卒中後の機能障害を回復を促進させるリハビリは重要です。しかし、適切なリハビリを行っても運動麻痺などの機能障害が残存することは少なくありません。運動には脳血管障害のリスクを軽減させる効果だけでなく、様々な有益な効果があります。 予め軽い虚血などのストレスを負荷させることで、その後の強いストレス(脳梗塞など)による細胞障害が軽減されることが報告されています。 この現象は「プレコンディショニング」として知られています。私達は、脳梗塞前の運動が内在性保護因子(*1)を活性化させ、脳虚血様耐性を獲得させることにより、脳梗塞後の脳障害を軽減させることを明らかとしました。運動にも「プレコンディショニング」と同様の効果が期待できるかもしれないのです。 身体を動かす運動は脳の活動でもあります。私の研究室ではリハビリテーションの専門家の立場から、運動がどのように脳を刺激するのか、そのメカニズム解明に取り組んでいます。
定期的な低強度有酸素運動は認知症を予防する

厚生労働省の国民生活基礎調査によると、認知症は要介護の原因の1位に位置しています。これまでの研究から、環境や運動刺激に脳が適応して、記憶や学習に関わる海馬の神経細胞が増加し、認知機能が高まることが分かってきています。特に、高強度運動より、低強度運動が効果的であることが報告されています。これは、「ホルミシス効果」(*2)として知られています。 私の研究室では、高齢マウスに対する低強度バランス運動が、神経炎症を軽減させ、海馬神経細胞の減少を抑制することにより、加齢による認知機能低下が予防されることを明らかにしました。つまり、認知症予防には高齢者の方々でも継続して実施でき、ストレスとならない協調的な低強度運動が効果的かもしれないのです。 理学療法は、運動様式・頻度・時間など、根拠に基づいた運動を処方します。私は細胞内応答の観点から、運動療法の科学的根拠の確立に取り組んでいます。
用語解説
(*1)生体内には、脂質、ホルモン、転写因子、内在性保護タンパクのような種々の分子が内在性保護因子として、酸化ストレスの軽減、再生、修復などに関与しています。
(*2)「過度なストレスと異なり低用量ストレスは種々の生物機能を改善する」、例えば、ラジウム温泉のように低用量の放射線は身体に有益な効果をもたらすと言われるものです。