納税者の視点からみる税法学
皆さんは、「税」と聞いてどのような印象を受けるでしょうか。「負担」や「重い」などといった言葉に表れているように必ずしもポジティブな印象ばかりとは限りません。我々は日本国憲法に納税の義務を定められていることから、税を納めなければなりません。確かに、税を納めなければ我が国の医療制度や公共サービスは成り立ちえないことは理解できます。しかし、自分の財布・預貯金からお金が出ていくことは「負担」であり、それが続けば「重く」感じられるのも事実です。これまでの我が国の税法学は、税を課す側の視点に基づいて議論されてきたきらいがあります。つまり、税法を「徴税の法」と捉える考え方が支配的でした。制度の維持や公共サービスなどを提供するためにはどの程度の財源が必要で、どのような税制を構築することが妥当するかといった議論は重要です。ただし、その前提に納税者・国民の法的権利の擁護がなければ、我々は安心して生きていくことができません。現代的な租税問題の性格は、単なる財産権の問題を越えて、人々の生存権や全人権に関わる問題にまで発展する可能性があります。それゆえ納税者の視点で租税問題を考えることが大事になってきます。
ギグワーカーと税
皆さんは、将来どのような職業につきどのような働き方をしたいですか。現代では、インターネットの普及やIT技術の発展もあり、多様な働き方が可能となっています。その中で、近年インターネット上のプラットフォームを通じて単発の仕事を請け負う労働者(以下、ギグワーカーという)が注目されています。我が国では、働いて労働の対価を得ると所得税が課されます。そして、所得をその性質ごとに10種類に分類して課税しています。しかし、ギグワーカーはサラリーマンのように会社との間で契約を結んで決まった時間、会社の指揮命令下で働くことはせず、あくまで単発の仕事を請け負う存在です。そうすると、両者の所得の性質は同じなのでしょうか。それとも異なるのでしょうか。なぜこのような性質が問題になるのでしょう。実は、この性質の違いによって、所得税法は異なる計算方式を設けていますので、大づかみに言うと税金の額が変わってくるからです。それゆえ、税に関わる問題ではどちらでもよいという解決策はありません。だからこそ、それぞれの働き方や会社との関係性などを比較検討として、両者の所得の性質を明らかにしていくことが求められるわけです。