アルコール・薬物使用障害からの回復支援に関する研究

アルコールをはじめとする薬物の有害使用は、心身に悪影響を及ぼすだけでなく、経済的にもダメージを与えるため、世界的な健康障害の最大のリスク要因の一つとされています。回復には長い時間がかかり、病院での治療と社会的支援体制が不可欠です。研究では、アルコール・薬物使用障害の回復に必要な要因について、体験者の方や回復支援施設にて勤務する方の協力を得てデータを蓄積しています。精神看護学の視点から、科学的データに基づいた回復支援モデルの開発を目指しています。
一般的に、女性は男性よりアルコールの影響を受けやすく、依存の進行も早いとされています。特に、出産適齢期の女性はアルコールの有害使用の高リスク者です。若年女性のアルコール関連問題への対策として、ライフイベントや生物学的特徴などを考慮した教育的介入が必要です。アルコール使用障害を抱える若年層の女性を対象に、家族や支援者と一緒に読むことができる絵本のような教材を開発しました。これらは地域や学校などでの予防教育にも活用されています。薬物使用障害を有する方々の生活の質について調査した結果、薬物依存から脱却した後も生活のしづらさが継続していることが明らかになりました。回復のためには、治療の継続と社会的支援の充実、さらには就労支援などが必要であることが示されました。今後も研究を継続することで、アルコール・薬物使用障害を持つ方々の回復支援に貢献していきたいと考えています。
地域の強みを活かしたメンタルヘルスを向上させる方法を探る

精神看護学は、すべての人を対象としており、こころの健康を維持・増進できるように支援する学問です。こころの健康を維持・増進するためには、地域の環境や文化、フォーマル・インフォーマルな資源、強みに着眼したストレングスモデル(個人がもつ強み・希望や、その人を取り巻く環境の強みに着目)等が必要となります。地域の環境や文化のストレングスを可視化する手段として、与論島の地域伝統文化や現存する精神保健福祉に関するリソースについて、大学院生と共に調査を行いました。地域住民の皆様のご協力のもとインタビュー調査を実施し、地域の「元気が出る場所」を明らかにすることで「与論町の元気が出る場所マップ」を作成しました。 「元気が出る場所」とは、米国のMary Ellen Copeland 博士よって考案されたWellness Recovery Action Plan(元気回復行動プラン、以下、WRAP)に含まれる「元気に役立つ道具箱(ツールボックス)」を示しています。WRAPは誰もが使用できるものであり、精神科領域のみでなく、企業、大学などで導入されており、メンタルヘルスに関するセルフケアのツールとして活用されています。今後も地域に現存するこころの健康を高めるためのリソースについて調査を続けていきたいと考えています。