古典文学を研究すると人間がみえます。

みなさんは古文の読解が苦手かもしれません。私は先生になった今でも苦手ですが、それでも古典文学(江戸文学)の研究を行っています。古文の何が好きなのでしょうか。それは古文を研究する人たちを研究することが好きだからです。
古典文学では歴史とは違って人間の想像力が翼を広げます。光源氏や美しい姫などのフィクション。『徒然草』のように人の生き方を問い直すような随筆。ひたすらだじゃれを追い求める江戸文学など現実を忘れることができるのは今も昔も変わりません。
また古典文学研究は作品研究だけではありません。古典文学を研究していた昔の人(古人)を研究する分野もあります。私の専門はこちらになります。
具体的には江戸時代の文芸や学問の実態を江戸時代の資料を使って解明することです。たとえば日記や手紙を読み解いて、そのときに何を考えていたのか、どういう作品を読んでいたのか、何が流行っていたのだろうかと考えることです。
つまり古典文学の研究を通して古人を研究しています。しかし研究すればするほど人間は何も進化などしていないと思えます。一見、悲しいことのようですがそれが人間です。
みなさんも古文を研究して人間探求してみませんか。
江戸時代の学者や文人(文学好きな人)研究とは

彼らのことを研究するには彼らが書いた作品や日記、学者同士で交わした書簡を調べるのが近道です。現在、国立台湾大学(中華民国)に残されている長沢伴雄(ながさわともお、1808-1859)という学者の日記群を分析して、当時の勉強の仕方や江戸時代の人の考え方を研究しています。長沢伴雄は紀州和歌山藩士として第10代藩主徳川治宝(はるとみ)に仕え、公家や武家の装束や礼儀作法といった有職故実を研究し、『類題和歌鴨川集』という類題集を編集・刊行(1848)した人物です。
その長沢伴雄の旧蔵書が現在823点1600冊確認されています。その特徴は、論文構想メモ・日記、武器考証など自身の研究のための考証類が多く、彼の文事・学問はもとより同時代の学問・交流を窺うことのできる重要な資料群です。
江戸時代の文学研究や学問はまだまだ研究が進んでいません。研究すればするほど、新しい事実が発見され、江戸時代の文芸とはなんだったのかが明らかになっていくのです。
しかし、古典文学の原書に使われている文字(くずし字・変体仮名)を読める人が少ないので、授業では先人の遺産を受け継ぎ、保存していく大切さを学生に教えています。